こんにちは。現在、日本では多くの病気が難病に指定されています。その中でも患者数が多く、有名な病気の1つにパーキンソン病があります。
パーキンソン病は、脳の神経伝達物質であるドパミンを作る細胞に異常が生じる疾患です。脳内のドパミンが減るため、手足が震えたり、筋肉がこわばるなどの症状が生じ、生活の質(QOL)が著しく低下します。
パーキンソン病の治療は、レボドパ(商品名:ドパストン®・ドパゾール®)に代表される薬での治療が中心ですが、効果が少しずつ落ちてきてしまうといった問題がありました。
このような問題を解決するため、iPS細胞を用いた新たなパーキンソン病治療が世界で初めて実施されましたのでご紹介したいと思います。
iPS細胞による再生医療、パーキンソン病患者で安全性を確認
2025年4月16日、Nature誌に京都大学医学部医学研究科の澤本伸克教授のグループの研究が掲載されました。京都大学医学部附属病院で行われた第I/II相の臨床試験で、試験の前に新型コロナウイルス感染症に罹った1名を除いたパーキンソン病の患者さん7名を対象としました。
iPS細胞は、体の細胞に特定の遺伝子を入れることで、様々な細胞に変化できる能力を獲得した細胞のことです。澤本教授らは、iPS細胞を使ってドパミンを作り出す前の状態の細胞を作り出し、7名の患者さんの脳内に移植しました。
この試験の1番の目的は、「この医療行為が安全であるか」を確認することでした。試験の結果、入院したり生死に関わったりするような大きな問題は生じませんでした1)。多かった有害事象としては、移植した場所に痒みを生じた患者さんが4名いらっしゃいました。
一方、有効性については、評価の対象となった6名の患者さんのうち、「4名以上」で効果が認められました(MDS-UPDRS part III、Hoehn-Yahrステージでの評価)。また、この結果を裏付けるように、移植した細胞がドパミンを作り出していることも明らかになりました。
A pharmacist’s view
ご紹介した研究を通じて感じることは、「これまでの治療の概念を一変させる、新たな時代の到来」です。iPS細胞を用いた再生医療は、限界があったパーキンソン病の治療を大きく変える可能性があります。
この治療は世界で初めて行われたものなので、当然ですがハードルもあります。例えば、以下のようなことが挙げられます。
① 免疫抑制薬を使用しないようにできるか
② パーキンソン病治療薬なしで症状が改善できるか
③ 患者さんのQOL向上に繋がるか
まず、臨床試験では、移植による免疫反応を抑えるため「タクロリムス」という免疫抑制薬が15ヶ月間投与されていました。この薬は、急性の腎障害や感染症などの副作用を生じることが知られています。
動物実験では、タクロリムスを使用しなくても急性の免疫反応を生じることはなかったと本研究で報告されていることから、今後、免疫抑制薬を使わずに移植することができるようになればと思います。
次に、この試験に参加した患者さんは、移植後もそれまでに服用していたパーキンソン病治療薬を服用していました。今後の検証により、移植でパーキンソン病の症状が十分に改善し、薬の服用を終わりにすることができればと思います。これが実現すれば、経済的な面も含めて、患者さんの負担がかなり小さくなると期待されます。
最後に、患者さんのQOLの向上という結果を得ることができるかについてです。この試験では、上述したような有効性が得られたにも関わらず、試験に参加した患者さん全体の平均としては、QOLの改善は得られませんでした。
この原因の1つとして、患者さんの治療に対する期待が大きかったため、その期待を満たすだけの症状の改善が見られなかったためであると著者らは述べています。移植に使用した細胞の数が十分であるかなど、より大規模な試験での検証が待たれます。
まとめ
今回の臨床試験を通じて、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の安全性が確認されました。この技術を用いた医療への応用はパーキンソン病のみならず、心臓の病気などにも実施されつつあります。iPS細胞は、治療が難しい病気と生きる患者さんにとって、大いなる希望となり得るものと考えられます。
気になることがあれば、ご質問を受け付けておりますので、どうぞお気軽に「お問い合わせ」からご連絡下さい。
参考文献など
1) Nobukatsu Sawamoto(2025)”Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease” Nature.