【Article 5】日本発の新たな乳がん治療薬、ダトロウェイ®(第一三共)

くすり

2020年における女性のがん罹患者数の第1位は乳がんです1)。乳がんは、これまでの研究から肥満や飲酒、そして喫煙などがリスクになることが分かってきています2)。がんの中では比較的予後は良く、早期に発見されれば、かなり高い確率で治癒が望めるようになってきました。

進行や再発した乳がんの完治は現状では難しいものの、近年は次々に新薬が開発され、医療現場で用いられるようになっています。今回は、日本で開発された抗体を用いた新たな乳がんの治療薬が発売されましたのでご紹介したいと思います。

日本発の新たな乳がん治療薬、ダトロウェイ®

2025年3月、札幌医科大学が開発した抗体を用いた新薬、ダトロウェイ®(一般名:ダトポタマブ デルクステカン)が発売されました。これまでに抗がん薬による治療を受けたことがある「ホルモン受容体陽性・HER2陰性」の乳がん患者さんで、手術ができなかったり、再発した方に使用することができます。

ダトロウェイ®は、乳がん細胞の細胞膜にあるターゲット(TROP-2)に結合して細胞の中に取り込まれます。その後、抗体に結合していた物質(デルクステカン)が、がん細胞をやっつけることで効果を発揮します。

国際的に行われた、日本人を含む患者さんを対象とした試験(TROPION-Breast01試験)では、医師が選んだ治療薬と比較して、PFS(がんが進行しないで安定している期間)2ヶ月長くなるという結果が得られました3)(下図)。

引用:ダトロウェイ®点滴静注用100mg(第2版)添付文書

一方、重大な副作用としては、間質性肺疾患(3.3%)、角膜障害(14.4%)、そして骨髄抑制などが報告されており、これらに注意が必要です。

A pharmacist’s view

ダトロウェイ®は、がん細胞表面のTROP-2という目印を標的とした日本で2番目の薬です(2025年4月7日現在)。本剤は次のような特徴があります。

✅ 多くの乳がんの患者さんで使用可能
✅ 既存の抗がん薬と比較して、重大な副作用が少ない傾向
✅ 治療にかかる時間が比較的短い

はじめに、本剤は「ホルモン受容体陽性かつHER2陰性」という性質を持った乳がんの患者さんに使用することができます。これは、乳がん全体の75.3%を占めるとの報告があります4)。つまり、乳がん患者さんの4人中3人が本剤を使用できる可能性があります。

次に、本剤は既に使用されている抗がん薬と比較して、重大な副作用が比較的少ない傾向にあります。特に、貧血などの骨髄抑制は10%程度であり、これは以前から使用されてきた殺細胞性抗がん薬に比べるとかなり少ない確率です。この点において、本剤は比較的安全性の高い薬剤と言えるでしょう。

そして、治療にかかる時間が比較的短いという特徴があります。はじめて投与する際は90分かかりますが、その際に大きな問題がなければ、次回から30分で投与することが可能になります。治療も3週間間隔なので、患者さんの時間的制約が少ないというメリットがあります。

まとめ

ダトロウェイ®は、日本で開発された抗体を使用した新しい乳がんの治療薬です。多くの乳がんの患者さんに使用できる可能性があり、重い副作用は既存薬と比べて少ないという特徴があります。本剤により、乳がん治療の質が更に改善することが期待されます。

参考文献など

1) 厚生労働省「全国がん登録罹患数・率報告(2020)」
2) 吉村知哲「がん専門・認定薬剤師のためのがん必須ポイント第5版」じほう, 2023
3) 添付文書:ダトロウェイ®点滴静注用100mg(第2版)
4) 大鵬薬品工業株式会社ホームページ「経口抗がん剤「ティーエスワン®」ホルモン受容体陽性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術後薬物療法の適応追加承認を取得」

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