こんにちは。日本には大きな社会問題が数多くありますが、その1つに認知症の患者さんの数が増加していることがあります。認知症は本人のみならず、その家族にも大きな影響を与えます。65歳以上の患者数は、2025年には675万人と推定されており1)、今後さらに増えると予想されています。

認知症のリスクの1つに、脳の白質(上図の内側の薄いピンク色の部分)の病変があることが、これまでの研究で明らかとなっています。今回は、緑茶が白質病変を減らし、認知症を予防する可能性があるという研究が日本の研究チームより発表されたので、ご紹介したいと思います。
緑茶が認知症を予防する可能性
2025年1月7日、npj science of foodに、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科の柴田修太郎先生のグループの研究が掲載されました。日本で行われた研究で、2016年〜2018年に行われた調査に基づいたものです。この調査に参加した8つの医療機関から集められた11,400人の65歳以上の高齢者のうち、既に認知症である人などを除いた8,766人を対象としました。そして、質問票を用いて1日当たりの緑茶やコーヒーの摂取量を測定し、これらの飲みものと白質病変などとの関連性を評価しました。
その結果、緑茶の摂取量(横軸)が多いほど白質病変(縦軸)が有意に少なくなることが明らかになりました2)(下図)。具体的には、1日200mL(約1杯)の緑茶を飲む人と比べて、600mL(約3杯)飲む人は白質病変が0.97倍に、1500mL(約7〜8杯)飲む人では0.94倍に減少していました。一方、記憶に関与すると言われる海馬の体積や脳全体の体積は変化がありませんでした。
また、コーヒーの摂取量と上記のパラメータとの間には関連が見られませんでした。

A pharmacist’s opinion
ご紹介した研究は、緑茶が認知症を予防する可能性を示した興味深いものです。しかしながら、この研究は根拠のレベルが中程度の横断研究であり、下記の点に注意が必要です。
① 高齢者のみを対象としていること
② 緑茶の抽出方法などの情報がないこと
③ 白質病変の差は僅かであること
まず、この研究は65歳以上の高齢者のみを対象としています。このため、65歳未満の人でも同じ結果になるとは限りません。
次に、研究で用いた質問票に緑茶の抽出方法に関する情報がないことが挙げられます。抽出方法により緑茶に含まれる様々な成分の量に変化が生じる可能性が考えられます。この点が不明であるという問題点があります。
そして、白質病変の差が僅かであることにも注目する必要があります。この差が本当に認知症の発症を低下させるのかについては、更なる研究が必要と思われます。
上記のような課題がありますが、日常的に緑茶を摂取することは認知症の予防に繋がる可能性があります。この研究ではコーヒーの認知症予防への効果は確認されませんでしたが、【Article 2】のような研究報告もあるため、コーヒーを飲む人は午後は緑茶を飲むようにしてみると良いかもしれません。
まとめ
この研究は、緑茶が認知症を予防する可能性を示した興味深い研究です。緑茶には利尿作用があるカフェインが含まれています。熱中症のシーズンは水を飲みつつ、緑茶を飲むと脳の健康維持に繋がるかもしれません。
気になることがあれば、ご質問を受け付けておりますので、どうぞお気軽に「お問い合わせ」からご連絡下さい。
参考文献など
1) 消費者庁ホームページ「令和5年版消費者白書目次、第1部第2章第1節(1)超高齢社会の現状」
2) Shutaro Shibata(2025)”Green tea consumption and cerebral white matter lesions in community-dwelling older adults without dementia” npj science of food, 9:2.