【Article 3】胃カメラで膵臓がんを早期発見できる可能性(大阪大学などの研究)

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こんにちは。【Article 1】でご紹介したように、我が国のがん治療の進歩は目覚ましいものがあります。しかしながら、がんの中には依然として治療成績が十分ではないものがあります。その1つが膵臓がんです。

膵臓がんの治療成績向上の大きなハードルとなっている原因の1つは、「早期発見が難しい」ことが挙げられます。現在、膵臓がんの診断には腫瘍マーカーや腹部超音波検査などが用いられていますが、早期発見に必ずしも結びついていないのが現状です。

今回は、胃カメラで、切除可能な早期の段階で膵臓がんを発見できる可能性を示した画期的な研究結果が発表されたのでご紹介したいと思います。

胃カメラで膵臓がんを早期発見できる可能性

2025年2月4日、ANNALS OF SURGERYに、大阪大学大学院医学系研究科の谷内田真一教授のグループの研究が掲載されました。日本で行われた研究で、2021年7月〜2023年3月に7つの医療機関に登録された89名の膵臓がん(初診時に手術可能であった)患者さんと、75名のがんがない人を対象とした研究です。

まず、膵液の分泌を促す目的で、合成したヒトセクレチンを被験者に投与しました。次に、上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)を用いて、食道・胃・十二指腸球部の検査を行いました。その後、生理食塩水で膵液の出口を洗浄し、特殊なカテーテルを用いてその洗浄液を採取しました。そして、洗浄液中にKRAS(ケーラス)という遺伝子に変異があるかどうかを調べました。

その結果、この手法が、膵臓がんの腫瘍マーカーとして用いられているCEAやCA19-9よりも有意に高い精度であり、膵臓がんを切除可能な状態で発見できることが分かりました1)。また、慢性膵炎や自己免疫性膵炎ではKRASの遺伝子変異は検出されず、偽陽性(本当は病気ではないのに病気であるとの結果が出ること)のリスクが低いことも明らかになりました。

A pharmacist’s opinion

この研究は、早期発見が非常に難しい膵臓がんの現状を大きく変える可能性があるものです。しかしながら、すぐに誰でもこの検査を受けられる訳ではなく、以下の点にも注意が必要です。

① より大規模な検証が必要であること
② 合成ヒトセクレチンが医薬品医療機器等法(薬機法)未承認であること

①について、今回の研究は合計164例を対象としたものであり、比較的小規模の検証です。今後、より多くの医療機関で、より多くの人を対象とした検証を行う必要性があります。

②について、研究で使用された合成ヒトセクレチンは、現在薬機法で承認されておりません。アメリカでは2004年にFDAから承認されている2)ので、実際の医療現場で使用するためには、日本でも承認を得る必要があると考えられます。

膵臓がんは1cm以下のごく早期であれば、5年生存率が80.4%と非常に高いという報告があります3)。ハードルはありますが、ご紹介した研究が膵臓がんの治療成績の向上に大きく貢献する可能性は高いと思われます。

まとめ

この研究は、早期発見が難しい膵臓がんの現状を大きく変え得る可能性があります。今後の検証で本研究の有意性が確立されれば、胃カメラで食道がんや胃がんのみならず、膵臓がんも早期に見つけられる時代が来ることが期待されます。

参考文献など

1) Shinichi Yachida(2025)”KRAS mutations in duodenal lavage fluid after secretin stimulation for detection of pancreatic cancer” Annals of Surgery.
2) ResOUホームページ「胃カメラしながら 膵がんの早期発見」
3) 大阪赤十字病院がん診療センターホームページ「膵がんについて」

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