こんにちは。アトピー性皮膚炎は、強い痒みを伴った湿疹を生じる慢性の炎症性疾患です。症状が良くなったと思えば悪くなることを繰り返すことが特徴で、汗をかきやすい夏と乾燥しやすい冬に悪化しやすいとされています。患者数は年々増加しており、2020年には約125.3万人もの人が罹患している、最もよく見られる皮膚疾患の1つです1)。
アトピー性皮膚炎は、痒みと湿疹のために生活の質(QOL)が著しく下がってしまうことが大きな問題であり、これを改善するため、主に塗り薬が使用されます2)。最近では、症状のひどい場合は内服薬や注射薬も使用されるようになってきました。
塗り薬として、これまではステロイドやタクロリムスが長く使われてきましたが、ステロイドは皮膚萎縮(皮膚が薄くなること)、タクロリムスは刺激感などの副作用が問題となることがありました。そこで、最近では、ステロイドを含まない新しいメカニズムのモイゼルト®(一般名:ジファミラスト)やコレクチム®(一般名:デルゴシチニブ)なども使用されるようになってきました。
では、従来の薬と新しく登場した薬、効果と安全性はどちらが優れているのでしょうか?今回は、最新の研究結果をお伝えしたいと思います。アトピー性皮膚炎でお悩みの皆さん、ぜひ参考にしてみてください。
アトピー性皮膚炎治療、従来薬vs.新規薬
2025年3月29日、Dermatology and Therapy誌に長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の室田浩之教授のグループの研究が掲載されました。1999年2月〜2022年3月に報告された質の高い研究(RCT:ランダム化比較試験)を抽出し、15〜70歳のアトピー性皮膚炎の患者さんを対象として、従来薬と新規薬の有効性と安全性を比較しました。
結論:有効性と安全性に大差なし


調査の結果、ジファミラストはプラセボ(効く成分が含まれていないもの)と比較して有意にアトピー性皮膚炎の症状を改善させましたが、デルゴシチニブやタクロリムス、そしてステロイド(トリアムシノロン)とは差が見られませんでした(図1)。
一方、重篤な副作用については、ジファミラストはプラセボと変わりなく、他の薬剤とも同様でした(図2)。
A pharmacist’s message 〜薬剤師からのメッセージ〜
私は、家族がアトピー性皮膚炎を長く患っており、皮膚の乾燥や痒みで辛い思いをしている姿を見てきました。何か役立つデータがないかと探していたところ、今回の研究に目がとまったのです。薬剤師として、「この研究の成果は、アトピー性皮膚炎のより良い治療に繋がるんじゃないか」と思いました。
今回の解析は、ステロイド外用薬としてトリアムシノロン(ステロイドの効果の強さとしては上から4番目)だけが比較の対象でした。このため、「クロベタゾールプロピオン酸エステル(最も効果の強いステロイド)」や「ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(上から2番目に効果の強いステロイド)」といったより効果が強い様々なステロイドと比較したデータも是非知りたいところです。医療現場では、「新規薬がどの程度の強さのステロイド外用薬と同じ有効性を持つのか」などが具体的に示せると、より患者さんに説明しやすくなるはずです。
一方、ジファミラストやデルゴシチニブは販売されてから日が浅く、比較的短期の安全性データが中心です。薬剤師としては、「5年、10年といった先に新たな副作用が出てこないか」をチェックし、患者さんの長期的なフォローアップをしていきたいと考えます。
ー病気に対して共に歩むパートナーとしてー
患者さんやそのご家族の不安や想いに耳を傾けながら、私自身も研鑽を積んで行きます。アトピー性皮膚炎の治療の選択肢が増えた今だからこそ、皮膚科の先生方と一緒に、「あなたにとって最適な治療」を一緒に見つけて行きましょう。1歩ずつ、より快適な日々を迎えられるように!
まとめ
アトピー性皮膚炎は、近年新たな薬が登場し、治療の選択肢がこれまで以上に広くなってきました。現時点では従来薬と新規薬の間で大きな差は認められず、どちらも優れた治療薬と言えます。それぞれの薬剤の特徴を踏まえつつ、あなたにとって最良の治療が受けられるよう、共に歩んで行きましょう。
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参考文献など
1) 日本生活習慣病予防協会ホームページ
https://seikatsusyukanbyo.com/calendar/2023/010689.php
2) アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会・日本アレルギー学会)
3) Murota, H., Nakahara, T., Wang, X., Matsukawa, M., Takeda, H., Kondo, T., & Yamato, K. (2025). Systematic literature review and network meta-analysis of clinical efficacy and safety of topical treatments for patients with atopic dermatitis. Dermatology and Therapy (Heidelb), 15, 1045–1062.
https://doi.org/10.1007/s13555-025-01390-6