こんにちは。以前に日本人の3大死因の第1位は「がん」であるという話をさせて頂きました(こちらをご参照下さい)が、それに次ぐ第2位は「心疾患」です。日本では、高血圧性によるものを除いた心疾患で治療を受けている患者さんは約358万人もおり1)、その主な原因の1つが不整脈です。
不整脈は、通常よりも脈が速くなったり(頻脈)、逆に遅くなったり(徐脈)する病気です。その多くは命に関わることはほとんどなく、健康な人にも見られることがあります。一方、中には命に関わる重大なものもあり、抗不整脈薬やペースメーカーの植え込みなどによる治療が必要となる場合もあります。
これまでの研究から、身体活動が不整脈の発症リスクを低下させることが分かってきていますが、「歩く速さ」は影響するのでしょうか?今回は、この疑問について調査した研究結果が発表されましたのでご紹介したいと思います。
不整脈は早歩きで防ごう!
2025年4月15日、Heart誌に歩く速さと不整脈の発症リスクの関係を調査した研究が掲載されました。英国から報告された前向きコホート研究で、英国バイオバンクに参加した40〜69歳の成人420,925人を対象としました。そして、自己申告に基づいて歩く速度を以下の3つに分け、年齢や性別、そして喫煙状況などによる影響を調整し、13.7年(中央値)に渡ってこの関係を評価しました。
自己申告による歩く速さ | ハザード比(95% 信頼区間) |
ゆっくり | 基準 |
平均的 | 0.65(0.62〜0.68) |
速い | 0.57(0.54〜0.60) |
ここで、「ゆっくり」は時速約4.8km未満、「平均的」は約4.8km〜6.4km、そして「速い」は約6.4km超と定義されています。
調査の結果、歩く速度がゆっくりである人と比較して、平均的な人は35%、そして速い人では43%も全ての不整脈の発症リスクが低下していました2)(上表)。特に、最も多い不整脈の1つである心房細動は、平均的な人で38%、速い人では46%も発症リスクが低下していました。更に、以下の人では、これらの効果がより大きくなることも分かりました。
✅ 女性
✅ 60歳未満の人
✅ BMIが30未満の人
✅ 高血圧・2つ以上の慢性疾患が「ある人」
A pharmacist’s message 〜薬剤師からのメッセージ〜
私の趣味はウォーキングで、休日には川沿いの堤防を歩きながら四季の移ろいを楽しんでいます。そんな日々の中で、ふと大切な家族が不整脈により大きな健康リスクを抱えた経験を思い出すことがあります。治療に使われる抗不整脈薬で思わぬリスクを目の当たりにしたことで、「自分でできる予防策」がないかと思案するようになりました。そして、この研究を目にしたのです。Heart誌に掲載された研究結果は、私にとって大きな驚きでした。
この研究では、「速い」という歩く速さを時速6.4km超(1kmあたり約9分23秒以下)と定義しており、実際に試してみるとかなりのハイペースであることが分かりました。しかし、「平均的」な速さ(1kmあたり約9分23秒〜12分30秒)でも不整脈リスクは十分に軽減されるため、自身のペースで無理なく取り組むことがより重要だと感じました。これらの知見は、今まで楽しんできたウォーキングに新たな意義を与えてくれました。
私はアップルウォッチを使って歩く速度や心拍数を毎回測定しています。しかし、数値にばかり囚われると、まるで「デジタル中毒」のような感覚になることがあります。そのため、数値は参考にしますが、山並みや川沿いの風景に目を向け、鳥のさえずりや木々のざわめきを感じながら歩くことが、心身にとって本当に重要なことだと考えています。
この他にも、通勤の際に「早歩きタイム」を設けるようにし、そのおかげで朝のだるさが和らぎ、シャキッとした感覚で仕事に取り掛かれるようになりました。
ー歩くことが体だけでなく心も整えるー
この実感を、ぜひ皆さんにも味わって頂ければと思います。
ー薬に頼るだけではなく、毎日のちょっとした歩く習慣で心臓を守ろう!ー
これが今回の私からのメッセージです。まずは、ご近所を5分間だけ早めに歩く「速歩チャレンジ」をしてみませんか?小さな一歩かもしれませんが、この積み重ねが、あなたの健康と幸福感に大いなる変化をもたらしてくれるはずです。
まとめ
不整脈の発症を防ぐ薬はありませんが、日々の歩く習慣が不整脈から心臓を守ってくれるかもしれません。数値にあまりこだわらず、無理のない範囲で早歩きするようにしてみてはいかがでしょうか。不整脈の予防ばかりでなく、あなたのその心もより健やかにしてくれることでしょう。
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参考文献など
1) 日本生活習慣病予防協会ホームページ「生活習慣病の調査・統計」
2) Pei Qin(2025)”Association of self-reported and accelerometer-based walking pace with incident cardiac arrhythmias: a prospective cohort study using UK Biobank” Heart. 2025 Apr.
https://doi.org/10.1136/heartjnl-2024-325004