タグリッソ®を上回る新たな肺がん治療薬、ラズクルーズ®/ライブリバント®(ヤンセンファーマ)

くすり

2023年における男女合計のがん死亡数の第1位は肺がんです1)。肺がんの原因の1つにタバコがあることはよく知られていますが、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」や「間質性肺炎」などもリスクとして考えられています2)

肺がんは、小細胞肺がん約15%)と非小細胞肺がん約85%)に大きく分けられ、治療法が異なります。他のがんと同様、進行や再発した場合の完治は現状では難しいものの、がんの原因となる遺伝子異常が多く発見され、それらをターゲットとした様々な治療薬が使用されています。

その中で、中心的な役割を果たしてきた薬の1つがタグリッソ(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)です。タグリッソは2016年に販売が開始されてから多くの患者さんに恩恵を与えてきましたが、今回、これを上回る新たな非小細胞肺がんの治療薬が承認されましたので、ご紹介したいと思います。

タグリッソを上回る新たな肺がん治療薬、ラズクルーズ/ライブリバント

2025年3月27日、ラズクルーズ(一般名:ラゼルチニブメシル酸塩水和物)が承認されました。EGFRという遺伝子に変異がある非小細胞肺がんの患者さんで、手術ができなかったり、再発したりされた方に使用することができます。ラズクルーズは、既に販売が開始されているライブリバント(一般名:アミバンタマブ)という注射の薬と併用します。

ラズクルーズは、非小細胞肺がんの患者さんの多くで異常が見られるターゲット(EGFR)に作用してがんの増殖を抑えます。これに対し、併用するライブリバントは、細胞の外側からEGFRとMETという別のターゲットに作用することで同様の効果を示します3)

国際的に行われた、日本人を含む試験(NSC3003試験)は、化学療法による治療歴がない患者さんを対象に行われ、オシメルチニブと比較して、PFS(Progression-Free Survival:がんが進行しないで安定している期間)7ヶ月以上も長くなるという結果が得られました4)(下図)。

引用:ラズクルーズ®錠80mg、240mg(第1版)添付文書

一方、重大な副作用として、間質性肺疾患静脈・動脈血栓塞栓症、そして肝機能障害などが報告されています。中でも静脈・動脈血栓塞栓症はラズクルーズとライブリバント併用による治療(以下、併用療法)に特徴的であり、特に注意が必要です。

A pharmacist’s view 〜薬剤師の視点〜

ご紹介した併用療法について、以下の4つのポイントが挙げられます。

✅ 約27ヶ月を経過すると、がんの進行が認められなくなる
✅ 診断後、最初の治療(1次治療)から使用できる
✅ 血栓塞栓症に注意、柑橘系の果物も避ける必要がある
✅ 通院回数と薬代はタグリッソの方が優れる

まず、上図より、治療から約27ヶ月が経過するとPFSが横ばいになっていることが分かります。つまり、本データ上は、「この期間を過ぎるとがんが進行していない」と言えます。オシメルチニブでも同じ傾向は見られますが、併用療法の方がこの割合が10%程度高いことが分かります。有効性では、やはり併用療法がより優れていると考えられます。

次に、この併用療法は、1次治療から実施することができます。新薬は様々な治療を行った後にしか使用できないものが少なくないですが、1次治療から使用できるということは、それだけこの治療の有効性を証明していると言えます。
また、第1・2世代と言われる治療薬の効果が落ちてしまった患者さんにも、この併用療法は有効である可能があります。

他方、上述したように、重大な副作用(特に血栓塞栓症)に注意が必要です。血栓塞栓症の予防のため、治療開始から4ヶ月間はエリキュース®(一般名:アピキサバン)を併用する必要があります。加えて、グレープフルーツを含む食品により副作用が強くなる恐れがあるため、グレープフルーツをはじめとした柑橘系の果物にも注意しなければなりません(こちらをご参照下さい)。

最後に、タグリッソは内服薬であるため、例えば4週間に1回受診するだけで良いですが(病状などによります)、併用療法はライブリバントが2週間に1回投与する必要があるため、通院回数が増えてしまうという短所があります。
薬の価格もタグリッソが4週間で約52万円であるのに対し、併用療法は4週間で約96万円「以上」とかなり高額になります(ラズクルーズが薬価未収載のため、ライブリバントのみの価格(2025年5月7日現在))。健康保険や高額療養費制度があるため、全額を負担する訳ではありませんが、これらの点ではタグリッソの方が使いやすいと言えるでしょう。

まとめ

ラズクルーズとライブリバントは、優れた効果を示すタグリッソを上回る有効性を持った新しい非小細胞肺がん治療薬です。血栓塞栓症などの副作用や通院回数、そして医療費などに留意する必要がありますが、これまで以上に多くの肺がん患者さんに貢献してくれることが期待されます。

参考文献など

1) がん情報サービスホームページ「最新がん統計」
2) 吉村知哲「がん専門・認定薬剤師のためのがん必須ポイント第5版」じほう, 2023
3) 添付文書:ライブリバント®点滴静注350mg(第2版)
4) 添付文書:ラズクルーズ®錠80mg、240mg(第1版) 

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