こんにちは。皆さんは大腸がん検診を受けていらっしゃいますか?日本における大腸がんの罹患数は、がん全体の第1位(2020年)1)であり、死亡数は第2位と推定されています。非常に多くの方が大腸がんと診断されており、その予防や早期発見・早期治療が重要です。
大腸がん検診として一般的に広く行われているものは、「便潜血検査」と「大腸内視鏡検査」です。便潜血検査は健康診断で毎年行っている方も多いと思いますが、大腸がんを早期に発見できる能力は大腸内視鏡検査より劣るとされています。一方、大腸内視鏡検査は多くの下剤を飲む必要があったり、検査に恥ずかしさを感じることがあったりと、便潜血検査よりもハードルが高い傾向にあります。
では、本当に便潜血検査は大腸内視鏡検査よりも劣る検査法なのでしょうか?今回は、この疑問を検証した研究結果が発表されましたので、ご紹介したいと思います。
便潜血検査は大腸内視鏡検査と同じくらい有効
2025年3月27日、Lancetに大腸がんの死亡率について、便潜血検査と大腸内視鏡検査を比較した論文が掲載されました。スペインの15箇所の医療機関で行われた試験(ランダム化比較試験)で、2009年6月1日〜2021年12月31日の間、大腸がんに罹ったことがなく、家族に大腸がんの人がいない50〜69歳の参加者、57,404人を対象としました。そして、「便潜血検査(2年ごと)を行うグループ」と「大腸内視鏡検査(期間中1回だけ実施)を行うグループ」に均等に分け、10年後の大腸がんによる死亡率を比較しました。
その結果、死亡率は便潜血検査を行ったグループは0.24%、大腸内視鏡検査を行ったグループでは0.22%であり、両者に統計学的な差はないことが明らかになりました2)。また、詳細の記載はありませんでしたが、どちらの検査も、検査を受けなかった人と比較して、大腸がんによる死亡率が減少していました。

一方、進行していない大腸の病変の検出率は、大腸内視鏡検査は4.5%、便潜血検査では1.5%と、大腸内視鏡検査の方が優れていました。
A pharmacist’s view
ご紹介した研究を通じて最もお伝えしたいことは、「どちらの検査でも良いから、定期的に大腸がん検診を受けましょう」ということです。この点を踏まえつつ、研究のポイントを見ていきましょう。
✅ 10年間という追跡期間は十分か?
✅ 日本の基準は、この研究の検査間隔よりも短い
✅ 検診の実施率は便潜血検査の方が高かった
まず、「10年間という追跡期間は十分なのだろうか」という疑問があります。2つの検査で大腸がんによる死亡率に差はなかったという結果でしたが、上述したように、大腸内視鏡検査はより多くの進行していない大腸病変を発見することができました。これらの病変は、後々大腸がんに発展する可能性があります。従って、より長期的に調査することにより、死亡率に差が生じる可能性は否定できません。
次に、この研究では便潜血検査は2年ごと、大腸内視鏡検査は期間中1回のみ実施されています。一般的に、日本では便潜血検査なら毎年、大腸内視鏡検査であれば1〜5年ごと(初回の大腸内視鏡検査の結果によります)が推奨されています3)。
この研究で示された大腸がんによる死亡率は0.2%程度と十分に低いですが、我が国の基準で実施された場合、死亡率は更に低下するのか気になるところです。
最後のポイントは、「検診の実施率は便潜血検査の方が高かった」ことです。大腸内視鏡検査は、先に述べたような理由から、便潜血検査よりも検診のハードルが高いです。この点、より気軽に検査を受けられる便潜血検査は、優れていると言えるでしょう。
このように、研究結果については議論する点がありますが、少なくとも、「どちらの検査であっても、大腸がんによる死亡率は減らすことができる」ということが言えます。今までこのような検査を受けたことがない方は、ハードルの低い便潜血検査から受けるようにしましょう。他方、定期的に検査を受けていて、より大腸の病気を早期に発見したいという健康志向の高い方は、大腸内視鏡検査を受けると良いでしょう。
まとめ
便潜血検査と大腸内視鏡検査は、共に大腸がんの死亡率を減少するという根拠がある優れた検査法です。自分の考え方に合った検査を定期的に受けるようにしましょう。
気になることがあれば、ご質問を受け付けておりますので、どうぞお気軽に「お問い合わせ」からご連絡下さい。
参考文献など
1) 日本対がん協会ホームページ「がんの部位別統計」
2) Antoni Castells(2025)”Effect of invitation to colonoscopy versus faecal immunochemical test screening on colorectal cancer mortality(COLONPREV): a pragmatic, randomised, controlled, non-inferiority trial” Lancet, 405:1231-39.
3) 日本消化器内視鏡学会ホームページ「消化器内視鏡Q&A」